「矢代鴻」と聞けば、“歌”、あの味わい深い歌声が、自然と脳裏に浮かぶに違いない。宝塚きってのシンガー、矢代鴻―。しかし、矢代自身に「“歌うこと”とは何か」を尋ねると、「考えたことがない」。「ただその歌詞、そのメロディーを自然に歌い、聴く人に伝わることだけを考えてきた」のだと。そして、芝居にも歌にも“心”が必要で、歌詞の向こうにあるものを、聴き手の人生をうつして感じてもらえるのがいいと。そんな矢代にとって今までの舞台生活は、「演出家にいかにうまく生かしてもらえるか」に恵まれ、生かされてきた幸せな時間だったと語る。また、矢代の豊富な舞台歴、数多くの歌唱シーンの中から、特に正塚晴彦と荻田浩一の作品を映像で振り返る。いま与えられた役にただ全力で没頭し、振り返ることがなかったという矢代。“Dream”だという宝塚への尽きない感謝の念、退団後も前向きに学び続けたいという意志もあざやかな、最後のメッセージ。

主な出演者矢代鴻